先日,職場の方が読んでいた
『日本人の9割が知らない遺伝の真実』という本を借りて読んでみた。
「行動遺伝学」と呼ばれる学問領域について書かれている本で
少し前に流行した『言ってはいけない 残酷すぎる真実』と同じ領域から
書かれたものらしい。
内容については,まず前提として著者が述べている学問領域の目的について
ある程度理解できるかどうかがカギかな,というのが私の率直な感想である。
個人的には結構興味深く読むことができたのだけれど,
この本は読む人を選ぶかもしれない。
個人差において遺伝の影響が無視できないという真実。
行動遺伝学という学問は人の知能や性格といった要素に対し
それがどの程度「遺伝」や「環境」の影響を受けたものなのかについて
エビデンスに基づいて明らかにしていく学問のようである。
『日本人の9割が知らない遺伝の真実』で述べられているのは
「遺伝の影響が無視できない」ということだ。
どんな行動や性格を見るかによって少しずつ変わるものの
遺伝の影響が約5割,人を取り巻く環境の違い(非共有環境)の影響が約5割。
それに対して,同じ家庭,同じ学校といった共有環境からの影響は
前の2つに比べてとても影響が少ないらしい。
例えばとても裕福で教育に恵まれた環境で育ったからといって
影響があったとしてもそれは一過性に過ぎないのだという。
この影響の違いは加齢によっても変化するらしく,
20歳までは共有環境による影響が大きいが,45歳ではほぼゼロになり
45歳ではむしろ遺伝の影響が最も大きくなるとか。
歳をとるほど色々な経験をするだけに,環境による影響が大きそうだが
直感に反して歳をとるほど遺伝の影響が出るというのは興味深い。
ただし,著者曰く,
遺伝の影響が大きいからといって,学校の勉強やスポーツのトレーニングが
無意味だというのではなく,そのような環境が遺伝の発現に影響を与え
その人自身を形成していく可能性があり,むしろ無視できないのだという。
・・・正直なところ
なかなか一度読んですぐに理解できない部分もあり
批判的に読めなかった部分があるのは否めない。
しかし,遺伝の影響を認めることによって教育を取り巻く環境を見直すことそれ自体は
意味があるように思えた。
興味深かったが,正直ちょっと読みにくかった。
ここまでが私の簡単な感想であるが,
もう少し関連する書籍を読んで,私なりにじっくり考えてみたいと思えるような
興味深い本ではあった。
ただ,正直なところ,理解の有無を除いても,ちょっと読みにくい本ではあった。
というのも,最初この本を読んでいたとき
どうも著者の文章の中に,複数の人格が見え隠れして,正直寄ってしまったのだ。
最後のあとがきまで読んで,著者と編集者の他にライターさんもいたようなので
最低3人はこの著書の文章の中に含まれていたように思える。
1人の人の一貫した文章として,私はあまり読めなかった。
そしてもう一つ,おそらくこれは著者自身が書いた文章だと思うのだけれど
心理学用語や心理統計に関する説明がちょっと不親切であった。
私自身も大学院で理科教育学を専攻していた関係で
分子生物学や遺伝学,心理学についても多少の知識があったので読めたが
予備知識のない人にとっては著者の訴える主張の裏付けを
理解するのはかなり難しいかなぁ・・・。
おわりに:「行動遺伝学」についてもっと知りたい!
キャッチーなタイトルをつけないと売れないのかもしれないが,
もう少し「行動遺伝学」について
入門的な書籍があれば,理解が深まるのではないかなぁ,と
思った次第である。
そういう書籍が出たら,また読みたい。