最近ニュースでも「遺伝子」や「ゲノム編集」という言葉を
頻繁に耳にするようになってきた。
(一応)生物の教員である私も最新ニュースに関心があり,
このブログでもこれまで「ゲノム編集」について書籍などは紹介してきた。
一方,近年大変身近になりつつある「遺伝子分析」については
実はあまり私も調べてこなかったフシがある。
遺伝子分析といえば,1990年代に「ゲノムプロジェクト」という
ヒトのDNAの全塩基配列約30億個を調べるという途方も無い計画があり
約12年経った2003年に完了している。
しかし今や,次世代シーケンサーの登場により
12年かかっていた分析は今ではたった1日しかかからない。
そんなわけで最近はAmazonのようなネットショッピングでも
遺伝子分析キットが買えるほど実は身近になっているのである。
そこで,今回は教材研究(?)も兼ねて
試しにAmazonでアルコール感受性遺伝子分析キットを買ってみた。
キットの中に何が入っているのか,調べてみた。
Amazonで気軽に遺伝子分析キットが買えてしまう時代。
今回Amazonで買った遺伝子分析キットは
『GENOTYPIST アルコール感受性遺伝子分析キット』という
5000円くらいのキット。
他にもAmazonにはいろんな遺伝子分析キットが売られており
調べる遺伝子の数によって5000円から30000円まで幅があるようだ。
で,今回買ったアルコール感受性遺伝子分析キットというのは何かと言うと,
端的にいえば「どれくらいお酒が強いか?」を調べるもの。
ちなみに私はお酒がめっぽう弱く,ここ数年全く飲んでいないので
被験体になるにはちょうど良い,と考えたわけである。
調べる遺伝子はADH1B遺伝子とALDH2遺伝子の2つ。
ここで少し,飲んだ後のお酒の行方について学習しよう。
私たちがお酒を飲むと,アルコール(正確にはエタノール)が体の中に取り込まれる。
しかし,アルコールは体にとっては毒なので,その毒を分解して壊そうとする。
アルコールの分解は2段階あって,
「アルコール(毒)→アルデヒド(毒)→酢酸」の順に進む。
お酒に強い人はこの分解を体がうまく行える人で,
逆にお酒の弱い人は,この2段階の分解のどちらか,または両方が
うまくいかない人なのである。
しかも,このアルコールの分解に関わる酵素タンパク質を作る遺伝子は
「SNP(スニップ)」と呼ばれる遺伝子多型が存在する。
簡単にいえば,人によって遺伝子の一部がほんのちょっと違うのである。
ちなみに,タンパク質はアミノ酸が一列に並んだもので,
アミノ酸の並び方によってタンパク質の形がちょっとずつ変わる。
形が変わると機能や性質まで変わってしまう。
Amazonで買った遺伝子分析キットで調べる遺伝子の場合,
ADH1B遺伝子はアルコールをアルデヒドに分解する酵素を作る遺伝子で,
47番目のアミノ酸がアルギニンの人とヒスチジンの人がいる。
ALDH2遺伝子はアルデヒドを酢酸に分解する酵素を作る遺伝子で,
487番目のアミノ酸がグルタミン酸の人とリシンの人がいる。
前者のアミノ酸を持っている人ほど素早く解毒できるので
お酒が強い人,というわけだ。
遺伝子分析キットを開けてみた!
さて,予習はこの辺にして,
実際に遺伝子分析キットを開けてみることに!
中から出てきたものはこんなもの。
明らかに分析にしようしそうなものは,綿棒とプラスチックの試験管。
キットの使い方はいたって簡単なようだ。
まず,口をよくうがいで綺麗にした後
口腔上皮細胞(口の中でほっぺたの裏側に当たる場所)を含んだ粘膜を
綿棒でこすってとる。
それを試験管ケースに入れて,書類とともに郵送。
後日,結果が届くというものだ。
呆気ないほど簡単である。
調べられる遺伝子は2つだけだけど,実際の操作はとても簡単なようだ。
ちなみに箱の中には返信用封筒と3枚の文書が同封されていた。
一つは説明書,もう一つは同意書である。
細胞といえども,DNAは「究極の個人情報」なので
同意書にはびっしりと小さな字が書かれている。
もちろんちゃんと読まなければならない。
あと1枚は申込み用記入シート。
個人情報について記入しなければならないが,
未成年の場合は保護者の同意も必要のようだ。
この申込書の下には気になる一言も書かれている。
「オーダーメイド医療実現のための遺伝子研究へのご協力について」である。
この文面から考えるに,
提供したDNAがただのアルコール感受性検査に使われるだけでなく,
他の塩基配列もSNPの研究に使われる可能性はとても高い。
そう考えると,5000円は少し高いような気がしてくる。
被験体として情報を提供するのだから,
もっと割安にするか,むしろお金をもらう側でもいいんじゃないかと思うのだが,
その辺りは色々な規制があるに違いない。
ちなみに申込書の裏にはアンケートがある。
おわりに:実際に分析キットを送ってみたい!
教材研究,という名の興味本心で買ったキット。
このまま教材としてとっておいても良いが,
せっかく買ったので,実際にほっぺたの裏っかわの細胞を送って
結果を見てみたいものである。
これを書いている時点ではまだ実行していないが,
分析結果については,追々また報告したい。
乞うご期待!