こんにちは、元・理科教員のuru(@uru_)です。
もうすぐ夏休み。夏休みというと子どもたちにとって悩ましいのは宿題。その中でも理科の自由研究と国語の読書感想文は子どもだけでなく保護者も頭が痛い課題でしょう。できることなら早めに取り取り掛かり、確実に終わらせたいというのが本音のはず。そして、どうせやるなら少しでも良いものにしたいはず。
以前私は中学校の理科教員であり、市内の中学生の自由研究の審査に携わったことがあります。その経験から言わせてもらうと「良い理科の自由研究」には次のような3つの共通点があります。
- 大人が子どもの自由研究に積極的に関与している
- 巷に溢れる「自由研究お助け本」を利用していない
- 研究の決まった「枠組み」に忠実である
もし、今これを読んでいる人が、後ろめたい気持ちで自分の子どもの宿題を検索していてこの記事に出会ったのだとしたら、1. に当てはまります。宿題を手伝うことを気に病む必要は全くありませんのでご安心ください。
「良い理科の自由研究」に関する3つの共通点について詳しく見てみましょう。
1. 大人が子どもの自由研究に積極的に関与している
計算ドリルや漢字の書きとりなどは各教科の基礎の習得が目的なので保護者が絶対に手伝ってはいけません。それは子どもの未来を潰すに等しいですから。
一方、理科の自由研究に含まれる課題は多岐にわたり複雑です。「研究テーマの設定」はもちろんのこと、「研究計画」「材料の購入」「論文の執筆」そして「推敲」、そのほとんどを子どもたちは未経験です。そして何より、理科の自由研究には「正答」が存在しません。
したがって、理科の自由研究はそもそも子ども1人の力のみで解決する課題ではありません。それどころか,必要に応じて周囲の身近な大人の力を適切に借りることも課題解決能力の1つに含まれていると思ってください。
ただし、それでも基本的には子どもの宿題なので、研究の成果物を作る、つまり論文を書くのは子ども自身であることは守ること。大人は添削こそしても、絶対に代わりに書いてはいけません。
さて、ここで一つ大きな問題があります。それは「誰に」協力を求めるかです。
教師の関与
理科の自由研究は、その宿題を出した教師に聞くのが最も手っ取り早いです。3. で示す「枠組み」を知っている張本人であるし、多くの場合、理科主任がその地域の研究論文集のバックナンバーを持っているので、過去の「良い理科の自由研究」を閲覧できる可能性が高いです。
これは大変重要なことで「良い」方法は「良い」ものから学ぶのが一番です。
ただし、教師に助言を求める場合にはその時期が重要です。
理想は夏休みが始まる前、遅くとも7月中ですね。教師も一労働者、8月になるとリフレッシュ休暇等を取ります。つまり、捕まりにくい。
もし夏休みに入ってしまったら、学校に電話を入れて7月中にアポを取って聞くのが良いでしょう。そして可能なら、理科室の道具が使えないか聞いておくといいですよ!
保護者の関与
理科の自由研究で賞を取るようなものは高確率で教師が関与しているか、もしくは保護者が教師や研究者である場合が多いです(少しずるいような気もするでしょうが、仕方ありません)。
または、保護者が協力しているな〜これは、と感じることも多いです。
例えば、農家の子どもが水耕栽培について研究するとか、建築家の子どもが室内の温度変化について研究するとか言ったものが当てはまります。保護者の仕事で得た得意分野やリソースをうまく利用して子どもの自由研究に結びつけているパターンです。
この場合、子どもは保護者の身の回りにあるリソースが使えるので取り掛かりやすく、子どもも保護者の仕事に興味を持ちながら行えるので続けやすいと言う利点があります。
また「良い理科の自由研究」は、過去の自由研究から引き続いて行われて、第2報、第3報……とシリーズ化していることが多いです。
つまり、「夏の自由研究」と行っていても、研究全体が「夏休み」の範囲に収まっていないことも少なくないわけです。そもそも何かを探究するのに決まった時期が存在する必要性などないのです。もしすでに過去に自由研究を行っているとしたら、新たに研究テーマを決めるのではなく,過去のテーマを深化させる方向で検討したほうがよいでしょう。
2. 巷に溢れる「自由研究お助け本」を利用していない
本屋に行くと「自由研究お助け本」と私が勝手に呼んでいるような自由研究のための観察・実験ネタの本がいっぱい置いてあります。
3. で示す「研究の決まった枠組み」が書かれているならまだ参考にはなりますが、本の中で扱われている観察・実験はよほど結果・考察がうまくまとめられていない限り、ほとんど評価されないと思っていてほしいです。
なぜなら、自由研究を評価するのは理科教師なので、まずその手の本や中身の実験をすでに知っています。ましてやそれをパクってきただけであれば。むしろマイナスをつけたいくらいです。
「自由研究お助け本」の良くない点は「自由研究」=「観察・実験をすること」が目的になっている点です(本に「〇〇監修」と有名な人の名前が入っていても注意してほしい)。なぜ巷の自由研究が「観察・実験」のレシピ本のようになっているかというと、研究というものをちゃんとやったことのない保護者が「研究」=「観察・実験をすること」と思い込んでおり、そういう本の方が確実に売れるからです。
理科の自由研究なので確かに観察・実験はしますが、それは何か結論を言いたいがために使う証拠であって観察・実験は手段にすぎません。重要なのは,最後に「まとめる」こと、それ自体なのです。
しかし、研究のテーマは誰しもが最も悩むところ。何を参考にするのが良いのでしょうか。
それは、最も身近にあるものは「理科の教科書」です。
理科の教科書を最大限活かせ!
「良い理科の自由研究」の共通点として、その学年までに子どもが学習してきた科学知識がちゃんと関連づけられていることが挙げられます。
つまり、研究テーマは突拍子も無いところから生まれるのではなく、あくまでこれまで学習したことを深めるようなものが評価されるのです。
これは、そもそも理科の自由研究が「宿題」として出る理由でもあるし、本物の研究の世界でも、これまで研究されてきた内容(先人が既に明らかにした科学知識)を関連づけられていないものは評価されないのと同じです。それは単なる独りよがりです。
もし、あまり理科が得意でない場合は、教科書に載っている実験をそのままやってみるのも良いでしょう。ただし、1回ではなく繰り返しやってデータを取ってみるとか、授業で行う以上に気づいたことや考えたことを書いてみるとか、図書館で同じものを調べる別の実験と比べてみるとか、やりようはいくらでもあります。
そのような「ほんのちょっとの工夫」がオリジナリティになるのです。
3. 研究の決まった「枠組み」に忠実である
理科の自由研究でも,読書感想文でも、ある決まった「枠組み」というものが存在します。
理科の自由研究の場合は次の通りです。書くべきことが非常にはっきりしています。
- 研究の背景と目的(もしくは動機)
- 研究の方法
- 研究の結果と考察
- まとめと今後の課題
- 引用・参考文献
ここで一つポイント。それは、自由研究に取り組む or まとめるとき、上から順番にやる必要は全くないということ。研究の目的や動機を最初に考える必要は全くありません。最終的にこの順番になっていれば良いのです。1つひとつを別々の作文と捉え、それぞれ200〜400文字程度に収めてみましょう。合算すれば最大2000文字の論文が完成します。
先ほど「自由研究お助け本」を利用しないという話を書いたが、お助け本に書かれた観察・実験を実際にしてみることを否定しているわけではないことに注意してください。
なぜなら、とりあえずやってみてから、疑問がわいてくることは決して珍しくないからです。そこで、教師・保護者の助言や理科の教科書を参照しながら研究になる観察・実験(対照実験やデータの複数回蓄積)にしていけば良いのです。
そんな感じで最初に観察・実験をしてしまったらとりあえず「実験の方法」が書けるし、「疑問」に対する答えが「実験の結果と考察」がまとめることができます。と言っても、この辺りは子どもの自力では困難なので、助言者がいた方が良いでしょう。
さて、理科の自由研究というと、大抵の場合、研究の背景や目的、もしくは研究の動機で行き詰まってしまう人が多いでしょう。研究のテーマでいきなりつまずく人は、順序よくやろうとしてしまうからである。
正直なところ、研究の動機などは後付けて全く構いません。最終的に後半部分と辻褄が合いさえすればいいんです。これは実際の研究者にだって起こりうることです。
だって、極端な話「宿題に出されたから研究してみた」というのが普通何ですから。そして、そんなバカ正直な動機づけは書けません。だからこそ「とりあえずやってみる」、言い換えれば「体験を造る」ことが、ここで役に立つのです。
引用・参考文献も忘れずに!
最後にぜひお願いしたいことは、引用・参考文献を必ずつけてもらいたい、ということです。
引用と参考の違いは分かりにくいのでここでは説明を割愛しますが、少しでも研究の途中で読んでアイデアになった本は羅列して挙げたほうが良いでしょう。もし教科書の実験を利用したら、まず教科書を文献名として挙げましょう。
先ほども述べたように「パクリ」は絶対やってはいけない。それは大人子どもに関係なく、立派な著作権法違反という犯罪です。アイデアやオリジナリティは何も無いところからは絶対生まれない。だから,参考にしたことは「参考にしました」と堂々と示してほしいのです。
自由研究を評価するとき、私は何よりもまず引用・参考文献を確認します。何も書かれていなければ、中身を読まないことすらあります。
引用・参考文献はその文献の著者に対しての敬意を表すところでもあります。ぜひその気持ちは大切にしてもらいたいものです。
おわりに:難しいけど、それもコミで楽しんでほしい
長々と書いてしまいましたが、まだこの話題については書ききれない部分が多いです。しかし、とりあえず言えることは、保護者の方は悩んだら学校に問い合わせ、相談してみることをお勧めしたい。それはやってはいけないことではないのですから。そして、この質問に教員が答えられなければ、宿題を出す資格はありません。
理科の自由研究は難しい課題ではありますが、それだけに子どもの創造力・発想力・思考力の成長に寄与する部分も大きい課題です。
子どものもつ力を伸ばすためにも、ぜひ諦めず、楽しんでやってみましょう!