学校の中でも,特にその役割が学校内でもなかなか十分に認知されているとは言えない
学習環境の一つに「学校図書館」がある。
いわゆる,図書室である。
図書室に関わる人間には大きく分けて2種類ある。
一つは「学校図書館司書教諭」,もう一つは「学校司書」である。
ざっくり言えば,前者は図書室の利活用に関わる「教員」であるのに対し,
後者は図書室の維持管理に携わる「職員」というイメージである。
しかし,平成27年に学校図書館法が改正されたことにより
学校司書は第6条で,
「学校図書館の運営の改善及び向上を図り、児童又は生徒及び教員による
学校図書館の利用の一層の促進に資するため、専ら学校図書館の職務に従事する職員」
という具体的な職務として初めて明記された。
この法改正により,学校図書に求められる資質・能力が現在議論されているのだが,
これがなかなか難しい(というか現実的でない?)ようである。
学校司書の資質・能力,あれも,これも?
平成28年6月19日に文科省で行われた
「学校司書の資格・養成等に関する作業部会(第1回)」の配布資料では
学校司書の専門性を高めるための資格についての案が述べられている。
詳細は文末のURLの参照してほしい。
ここで興味深いのは,資料9にある
公益社団法人日本図書館協会学校図書館職員問題検討会報告書(案)である。
その14ページの表4で「学校司書に求められる資質能力」がまとめられているが,
これがちょっと現実味のないあまりに高度な内容になっているのが見て取れる。
具体的には以下のような内容が並んでいる。かいつまんで並べてみると,
- 図書館情報学に関する基礎的教養
- 教育学に関する基礎的教養
- 児童生徒・教職員などとのコミュニケーションによるニーズの把握・対応
・・・である。
とどのつまり,司書の資質と教育の資質の両方を兼ね備えようということである。
これに対応するように,19ページの表5では
養成カリキュラムの科目構成案が述べられている。
2種類提案されているが,
簡単に言えば,司書,司書教諭,教職科目を万遍なく入れている状態である。
実情とかけ離れた養成カリキュラム
しかし,提案されている養成カリキュラム案は
学校図書の実態を鑑みれば,あまりに現実離れしていると言わざるをえない。
現在,学校で司書をしている方の形態は様々である。
地域の方や保護者の方が無償のボランティアで手伝っている場合もあれば,
パート職員として予算の元に配置されている場合,
自治体の図書館で働く職員が派遣されている場合などがある。
もし,先述したように,学校図書の資質・能力が専門的になると,
地域や保護者の方が学校図書を担うのは極めて難しくなるだろう。
そもそも論として,図書館司書の資格を取るには安くても10万円以上かかり,
かつ最短でも1年は単位を履修しなければ資格を得ることができない。
にもかかわらず,それに見合った給与が支払われているとはいえず,
正規で働くことも困難な実情がある。
これに加えて教職や司書教諭の単位が加われば,資格取得の負担が増すのは免れない。
かといって,教員が学校司書になるのもまたかなり難しい。
教員免許を有する司書教諭は学校教育においてはプロであるが,
基本的に司書教諭は図書館情報学に精通しているわけでは決してない。
したがって,図書館情報学については学びなおさなければならなくなる可能性が高い。
さらに,実際本当に大変になるのは
「教職員などとのコミュニケーションによるニーズの把握・対応」
というところである可能性が高い。
そもそも学校の教職員すべてが学校図書館の存在意義を理解しているとは言い難い。
最悪の場合,管理職にその理解がなければ,
ニーズを把握する以前に,まずニーズを作るところから始まることになる。
さて,管理職や教職員に対して学校図書が対等に意見を述べられるだろうか?
これは組織運営上,かなりの労力を要すると思われる。
おわりに:学校司書に関する今後の動向に注視したい。
今回議論した作業部会の配布資料はまだ第1回ということもあり
現在提案されている案が叩き台となり,今後修正が加えられるだろう。
どこまで現実に沿って,実効性のある内容に収まっていくのか
今後も注視していきたい。